いよいよ、ユージュアル・サスペクツからの引用も最後となりました。いよいよカイザー・ソゼの下で働くこととなった5人ですが、その結末とは。意外なクライマックスは実際に映画を見た時のお楽しみにとっておくとして、最後のフレーズを見てみましょう。
(出典:Asmik Ace, Inc.)
[Today’s phrase]
知らず知らずのうちに、カイザー・ソゼの”仕事”の邪魔をしていたことを知らされる5人。コバヤシと名乗る男のこのフレーズが、5人に状況が良くないことを理解させます。
先に翻訳例を見てみましょう。
≪翻訳例≫
さて、以前にthat節と仮主語のitの関連を学習した人にとっては、これはおさらいと言えるでしょう。珍しく、that節をitに置き換えていない文章です。SVCの文型で分解してみると、
S = That you did not know you stole from him
V = is
C = the only reason you are still alive.
であることがわかりますね。以前に説明したとおり、文章の前にthatをつけると、その文章自体を名詞句として扱うことができるようになります。ここでは、主語としてそれを用いています。ちなみに、仮主語のitを使うと次のような文章になります。
では、どうしてここでは仮主語のitが用いられていないのでしょうか。それについて考えるのが、今日の問題です。
[Today’s question]
どうして今日のフレーズでは、仮主語のitが用いられていないのかについて考えましょう。
当たり前と言えば当たり前ですが、仮主語のitを用いた場合、情報の順序が変わってしまいます。学校などでは、仮主語のitを用いた場合も用いない場合も同じであると言われることも多いのですが、実際には情報の順序が変化しているのです。
具体的には、次のように考えられます。
この文章だと、「君たちが彼から盗みを働いたことを知らなかった」という文章があり、その後、「それが、君たちが生き長らえている理由だ」と続くことで、初めて2つの文章が連結した1つの文章なのだと理解するのです。
しかし、こちらではどうでしょうか。
この文章では、「(itが)君たちが生き長らえている理由だ」となり、オリジナルのセンテンスとは情報の提示順番が逆になっていることがわかります。そのため、それを訳出すると、「君たちが生き長らえている理由だが、それは君たちが彼から盗みを働いたということを知らなかったという点だけなのだ」となります。
この2つの文章は内容こそ同じですが、与える印象は全く変わることがお分かりでしょう。そしてこのシーンは、5人に現状を的確に伝えるコバヤシのシーンであるわけですが、そうなると「君たちは知らなかっただろうが……」で始まる最初の文章の方が、キートン達にとって情報の順序が受け入れやすいものであると推測できます。
この様に、文章を理解する時には発話者の意図や状況を合わせて考えると、付加情報が得られることも多くあります。必ずしも仮主語が必要というわけではなく、時にはそれが用いられないことで得られる表現も存在すると知っておくことは、無駄ではないはずですね。
今日はこの辺で!